異なる時間を生きる定めです

 ⇒ 前編「善知鳥家で鍋を囲みます」はこちらです。

 食事のあと、こばとは酔っ払ってしまって先に寝入ってしまったんですけど、襖越しに交わされるマリちゃんたちの話声で目を覚ましてしまいました。2人とも小声で話していましたが、妖精の聴覚はとても敏感なのです。

こばとのことを話しているの?

真理子
 たまに考えちゃうのよ。
 なるべく考えないようにしてるけど。
 だって私が初めてこばとちゃんに会ったのは10歳の頃なのよ?

博和
 うん。真理子の家庭教師として、こばとちゃんが来たんだよな。

真理子
 私はこうして母親になろうとしてるのに、こばとちゃんはあの時の姿と少しも変わらない。私たちがこの先どんどん年をとっても、こばとちゃんはやっぱりずっと同じ姿で生き続けるのよ。でも私たちはいずれ ......

博和
 おいおい、真理子はまだ36だぞ。まさか今から死ぬのが怖いとか、こばとちゃんがうらやましいとか言うのかい?

真理子
 ちがうのよ。可哀想なのはこばとちゃんよ。

博和
 え? どういうことだい?

真理子
 こばとちゃんの身になって考えてみて。
 自分にとって大切な人が次々とこの世からいなくなって、これまでどれだけ寂しい思いをしてきたのか、そしてこれからも何度同じ思いをしなくてはならないのか。

博和
 .........

真理子
 こばとちゃん、いつも冗談のように「人間になりたいなー」て言ってるけど、半分は本気なんだと思う。

博和
 .........

真理子
 自分も大切なお友達と一緒に老いてゆけたら、と考えているんじゃないかしら。

博和
 .........

真理子
 ずるいわね、博和。

博和
 え?

真理子
 私にばっかり喋らせて。
 博和だって、こういうこと考えなかったはずない。博和とかばねさんも長い付き合いだから、私と同じこと思ったことがあるはずよ。

博和
 ...... そうだな。僕のじいちゃんが亡くなったときの、かばねさんの落ち込みようは、もう声もかけられないぐらいだった。

真理子
 そしてこれから、お義父さん、博和とまた同じ悲しみが繰り返されるのよ。その次は生まれてくるこの子も ......

博和
 よせよ! これから生を受けようとする子供に聞かせるような話じゃないだろう! 母親の負の感情は言葉を知らない胎児にだって良くない影響を与えるぞ。

真理子
 そうよね。ごめん。食事の時、自分では泣いてるつもりもないのに、知らないうちに涙がひとすじ流れていたのよ。自分でもびっくりしちゃった。

博和
 真理子が人前で涙を流すなんてこと、ほとんどないからな。
 やっぱり出産を前に気分が不安定になってるんだろう。

真理子
 かもね。

博和
 とにかく今は子供のためにも、余計なことは頭から追い払って、楽しい事だけをイメージしよう。

真理子
 うん。そうだね。あ、ところで、私はそれなりに母親になる覚悟ってものができているつもりなんだけど、博和もちゃんと父親となる自覚をもってるんでしょうね?

博和
 ...... 正直言うと、全然実感がないんだ。

真理子
 ...... しっかりしなさいね、お父さん。

博和
 うわあ。「お父さん」かあ。違和感ありまくりだなあ。

真理子
 ...... 本当に大丈夫?

<おしまい>

 このあと、こばとはなかなか寝付けませんでした。
 脳裏に今までお別れしてきた人たちの顔が次々と浮かんできて、なんだかとても懐かしくて、悲しくて、何度も涙を拭いました。ようやく明け方近くに眠り込んだと思うのですけど、夢の中では優しかった清少納言様に会ってお話することもできました。だから、この日の夜は悲しかったけど、ほんの少しだけ嬉しくもあったのです。

スポンサードリンク
末尾大型広告
末尾大型広告

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください