善知鳥宗一郎君

 本日は時間を空けずに2つ記事が入っています。
 ≪ 第6話「疎開」 も読み忘れないでね。

幸恵ちゃんの思い出 第7話「善知鳥宗一郎」

 汽車に揺られること半日。
 こばとたち一行は夕方に高崎に到着しましたよ。

こばと
 上野国(こうずけのくに)も久しぶりですねー。

幸恵
 こうずけって ...... くすくす、こばと先生、大昔の人みたい。

小野里義助(おのさと ぎすけ)
 あー、かばね様! お待ちしておりました!

かばね
 義助さん、しばらくね。お元気?

義助
 へい。そりゃもう体力だけが取り柄ですから。
 ささ、こちらに馬車を用意してありますんで、どうぞお乗りください。

 善知鳥家の使用人である義助さんの馬車に乗って、城下町の面影を残す町並みから徐々に田畑の風景へと移り変わる様子を眺めていました。

義助
 旦那様もかばね様の到着を心待ちにしております。

こばと
 こばと、お腹が空いてたまらないのねー。
 もうここ1年ほどろくなもの食べてないのねー。

かばね
 みっともないこと言うのはおよしなさい。

義助
 食事のほうもたんと用意してありますので。

こばと
 わーい! ごはんだ、ごはんだー。

かばね
 あなたが疎開するわけじゃないのよ?
 勝手に居つこうとしたって、引張って帰りますからね?

こばと
 ...... わかってるよ。

 馬車は大小の古い屋敷が並ぶところに止められました。
 こばとたちは馬車から降りると、母屋の座敷へ案内されます。

善知鳥泰誠(うとう たいせい)
 おお、かばねさん、よく来なすった。
 ちっともお変わりないようで。

かばね
 でも時勢のほうはずいぶんと変わってしまいましたね。

泰誠
 そうですなあ。確かに10年前には、こんな大事になるとは夢にも思いませんでした。村の若い者たちも、どんどん戦争に取られて居なくなってしまうし。難儀な世の中になりましたなあ。おうほら、宗一郎。かばねさんだ。おまえの名づけ親になってくださった方だぞ。きちんと挨拶せえ。

宗一郎
 ...... よろしく。

泰誠
 まったく、この通り愛想のないやつで。

かばね
 いいえ。男の子に愛想など必要ないわ。
 この子、とてもいい目をしてるわね。

幸恵
 あ、あの。初めまして。馬見塚幸恵と申します。このたびはうちの弟を世話してくださることになり、本当にありがとうございます。

泰誠
 ああ、気にするこたあない。1人や2人の食い扶持が増えたところで、この家はいっこうに傾きはせんわい。それというのも江戸時代に、うちのご先祖様がかばねさんにお世話になって繁盛したおかげだしな。このぐらいの恩返しをせんと罰が当たるわい。はっはっは。

こばと
 あのねー、長々と話し込むのもいいんですけどねー、こばとはとにかくお腹が空いたのねー。

かばね
 あなたの頭にはそれしかないの!?

泰誠
 おう。そうだったな。そろそろ夕飯にしよう。
 三郎君も信男君も腹いっぱい食え。

 ある所にはあるもんですねー。
 こばとたちは、本当に久しぶりに白いお米をお腹一杯食べることができました。なんだか数年ぶりに生き返ったような心地でしたよ。

泰誠
 東京はそこまで食糧事情が悪くなっとるんか?

かばね
 ええ。天保の飢饉以来と言っては大げさかもしれませんが、必要最低限の栄養にも足りない状態が続いていて。

こばと
 て、天保の飢饉のことなんて思い出したくもないですよー!
 あの時に比べれば今のほうがましねー!
 あの時は姉妹揃って丸1年仮死状態にならざるをえなかったですよー!

かばね
 でもこのままいくと、同じようなことになるかもしれない。

こばと
 そんなことになる前に、日本は勝ちますよー! い、今はちょっと劣勢かもしれないけど、そろそろ一発逆転して、連合軍をこてんぱんに打ち負かしますからー!

かばね
 あなた、この期に及んでまだそんなこと本気で信じてるの?

こばと
 「そんなこと」とは何ですかー!

宗一郎
 ...... 僕はアメリカなんて好きじゃないけど、あの国がすごい力をもってることは確かだ。向こうの小説を読んでたらわかる。

かばね
 あら、宗一郎君、小説を読むの?

宗一郎
 小説でも歴史でも、何でも読んでる。

泰誠
 小さい頃から身体が弱いから、本を買い与えとったんだが、ちっとばかし本の虫になりすぎて困っとる。だが宗一郎、ちょっと本を読んだからって、一丁前に大人の話に口をはさむような生意気な真似はすんな。

宗一郎
 あの国に逆らったもんは、だれもかれも酷い目にあう。その昔、アメリカに住んでいたインディアンという人たちは根こそぎやられた。この国もいずれそうなる。

泰誠
 もういい! わしは、かばねさんと話をしとるんだ。
 おまえは三郎君と信男君を連れて、向こうの部屋で遊んでおれ。

かばね
 いえ、いいのよ。立派に意見の言える子ね。とてもまだ10歳とは思えない。普通は大人でも外国文化に触れると、妙に感化されて西洋かぶれになったりするものだけど、この子は軸がぶれていない。

泰誠
 いやいや。ちょいと村の神童とか騒がれながら育ったもんだから、いい気になっとるだけですよ。

かばね
 この子、いつから読み書きを覚えたの?

泰誠
 ああ、確か3つの頃だったかな。誰が教えたわけでもないのに地面に棒きれで「いろはにほへと」と書いているのを義助が発見して、ちょっとした騒ぎになったんだ。

かばね
 この子は間違いなく神童だと思うわ。
 育てようによっては、将来大変な大物になる。
 ねえ、こばとはどう思う ......

こばと
 お汁粉がきましたよー♪
 甘いですねー! 幸せですねー!
 幸恵さんも三郎君も遠慮なくお食べなさいなー。
 んん? 姉さん、何か言いましたか?

かばね
 ...... いいえ、なんでもないわ。

 ≫ 第8話「鬼ごっこ」

スポンサードリンク
末尾大型広告
末尾大型広告

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください