こばとの鬼退治【前編】「どんぶらこ、どんぶらこ」
昔々のこと。おじいさんとおばあさんが村の片隅でつつましく暮らしていました。
今朝もまた、おじいさんは山へ柴刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。
おばあさんが洗濯板で布をごしごしこすっていると、川の上流から「どんぶらこ、どんぶらこ」と卵が流れてきたのです。
「あれまあ! 鳥の卵が巣から落ちてしまったのかねえ。これでおじいさんに栄養をつけてあげられるねえ」
おばあさんは卵をすくい上げて籠に入れて家に持ち帰りました。
「卵なんてもう何年も口にしてないなあ」
おじいさんは嬉しそうに言います。
「さっそく卵焼きを作りましょう」
おばあさんがそう言って卵に手を伸ばしたとき、「ぴしぴし」と音を立てて、卵の殻にひびが入ります。
「あれまあ! 孵ってしまうよ、おじいさん」
おばあさんはびっくりして叫びます。
「いったいどんな鳥が産まれるんだろう?」
おじいさんも目を丸くして卵の様子をじっと見つめていました。
しかし殻を割って出てきたのは鳥ではありませんでした。
背中に羽根を生やしていますが、小さな女の子の姿をしています。
「あんれ、まあ!」
おばあさんは、またまた仰天して腰を抜かしてしまいました。
そしてその小さな生き物は、自分の頭の上にあった殻を両手でひょいとどけてから、とんとんステップを踏みながら、楽しそうに踊り始めたのです。
生まれた、生まれた♪ こばとちゃん、生まれた♪
生まれた、生まれた♪ かわいい、こばとちゃん、生まれたよー♪
おじいさんも、おばあさんも、何がなんだかわからずに、ただ口をぽかんと開けてその様子を見ていました。
「そんなわけで生まれましたよー。とにかくお腹が空きましたよー。ご飯をくださいなー」
おかしな生き物ですが、確かにかわいい姿をしているので、おじいさんとおばあさんは自分たちの子供として育てることにしました。でもちょっとだけ困ったことが1つありました。
「とっても質素なご飯ですけどー。ぱくぱくぱく。まあこのさい贅沢は言ってられませんねー。ぱくぱくぱく。もっとお金持ちの家に拾われたかったですけどー。まあ仕方ないですねー。ぱくぱくぱく。お代わりくださいなー」
こばとちゃんはとても小さな身体をしているのに、人よりもうんとたくさんご飯を食べるのです。毎日毎日食費がかさみ、おじいさんたちの暮らしは苦しくなるばかりでした。
「こういうこと言いたくねえんだけどなあ、こばとちゃん。せめてご飯は2杯までにしてくれないかのう」
おじいさんが遠慮がちにそう言うと、
「たくさん食べるのは、これからうんと大きくなるためなのですよー。ほらー、近頃は鬼が島の鬼が近隣の村で悪さをはたらいているでしょー。この村にもいつやって来るかわからないのねー。でもー、こばとがたくさん食べて大きくなったらー、そんな鬼なんて、"こばとちゃんパンチ" でやっつけてあげますよー」
こばとちゃんは適当なことを言います。
しかし人の好いおじいさんとおばあさんはすっかりそれを信じ込んで、
「何と! そうだったのかい! けちなことを言って悪かった。遠慮なくどんどん食べて大きく育っておくれ!」
と、こばとちゃんにご飯をたくさん食べることをすすめます。
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【注】言うまでもないことですが、この作品はこばとが書いたフィクションです。