大冒険の予感?

鬼怒川温泉珍道中① 大冒険の予感?

いざ旅立ちです!

 火曜日の早朝。善知鳥家。
 マリちゃんは車の運転席に座って、色々と持ち物を確認しています。

真理子
 忘れ物ない?

こばと
 準備万端ですよー!

博和(真理子の夫)
 ちょっと待ってくれ。
 もう1度だけ戸締りと火元を確認してくる。

こばと
 そんなの気にしなくていいですよー。

真理子
 こばとちゃんはいいかもしれないけど、私たちの家だから。

博和
 よし。それじゃ行こう。

真理子
 じゃ、出すよ。

 マリちゃんは車のエンジンをかけます。この最初の微かな振動というのが「旅の始まりだよー」という期待感を刺激して気持ちを盛り上げますよねー。

こばと
 ひゃっほう、ですよー!
 スペシャルな企画が始まりますよー!

博和
 企画?

こばと
 今回の旅行はこまめに記録してブログに載せるのです。
 題して「鬼怒川温泉珍道中」ですよー。

真理子
 変なタイトル。珍道中とかしない。普通に旅行するだけから。

こばと
 殺人事件とか起きるかもしれませんよ?

真理子
 テレビの「湯けむりサスペンス」じゃないから!

こばと
 何はともあれ、予想もしないことが次々と起こるのが、こばとちゃん御一行なのですよー。

博和
 僕はのんびり温泉に浸かりたいだけなんだけど。

こばと
 そんな保守的なことでは、大冒険は望めませんよー。

真理子
 何で日光で大冒険しなくちゃいけないのよ。

こばと
 こばと、大冒険~♪ 日光で、大冒険~♪
 何が、起こるかなー♪ とっても、楽しみねー♪

博和
 ははは。歌いだした。こばとちゃん、ご機嫌だな。
 

姉のトラウマ

 途中のパーキングエリアで博和さんに運転を交代して、マリちゃんは助手席に移ります。どちらにしたって、こばとは後部座席でのんびりゆったりくつろげるのです。

こばと
 ひゃああ! ジュースこぼした!
 さっそく事件ですよー。

真理子
 何が事件よ! ちゃんと拭いておいてよ!?
 まったく後部座席を占領して食べたり飲んだり、歌ったり。いい気なものね。

こばと
 こばと、ちょー楽しい♪

真理子
 そういえば、かばねさん、今日は新幹線で来るんだって?

こばと
 そう言ってましたねー。

博和
 函館から宇都宮まで直通だっけ?

こばと
 何かややこしいこと言ってましたね。「はやぶさ」で仙台まで行って、「やまびこ」に乗り換えて宇都宮駅だって。

博和
 ああ、なるほど。宇都宮に「はやぶさ」は停まらないのか。

真理子
 でも札幌から栃木だと、飛行機を使ったほうが便利だし早いでしょ?

こばと
 姉さん、飛行機はあまり好きじゃないから。
 北海道新幹線が開通して「これでようやく、ああいう物に乗らなくてすむ」って喜んでましたよ。

真理子
 かばねさんが飛行機が苦手なんて初耳。

こばと
 大昔に軌道往還船に乗ってたときに、すごく怖い目にあったことがあるみたいで、1000 年たってもトラウマを払拭できてないのかもしれません。日本で旅客機が運航されるようになったときは「乗りたくない」の一点張りでしたからね。こばとが「宇宙船と飛行機は別物ですよ」と説得しようとしても、「とにかく、ああいう乗物は好きじゃないの!」と駄々っ子のように拒絶してました。その頃に比べると、何とか乗れるようにはなったんだから、姉さんなりに努力してるんです。

博和
 そうか。何でもこなす万能妖精みたいに見えるかばねさんにも、けっこう色々あるんだな。

こばと
 そりゃあ色々ありますよ。生き物ですから。

真理子
 こばとちゃんはトラウマとか何もなくて、楽しく好き放題に生きてるけどね。

こばと
 このまえ、とっても大きなトラウマできました!

真理子
 ネズミのこと? それぐらいのことで ......

こばと
 こばとと同じ背丈になったと仮定して、想像してみてくださいな!
 うー! ちょーやだ! ちょーこわい!
 あの姿を思い出しただけでも身震いですよー!

真理子
 ゴールデンウィーク終わったら本格的に駆除してもらうから。

こばと
 当たり前ですよー! せっかく楽しい旅行気分だったのに、ネズミのことなんて思い出すなんて、いやになっちゃうな、もう。そうだ。おやつ食べようっと。

真理子
 ...... さっきから、果てしなく飲み食いしてるじゃない。

博和
 それにしても、かばねさん、本当に日光で良かったのかなあ。

真理子
 私はこんな近場じゃなくて海外に行きたいって頼んだのに、博和が面倒だからって言うから、こんな近場に決まったんでしょ。それでどうして、かばねさんのことは気にするのよ?

博和
 そりゃあ、ずっと年配の方だし、僕たちの仲人でもあるしなあ。
 それなりに意見は尊重しないと。

こばと
 こばとも年配ですよ? もっと敬ってくださいな。

博和
 ・・・・・・・・・

こばと
 きい! 無視しないでくださいな!
 

下野国の思い出

博和
 かばねさんも、こばとちゃんも、海外旅行したかったんじゃ?

こばと
 こばとはそんなに海外とか別に好きじゃないですよ。明治時代にイギリス留学して懲りました。姉さんは、もっと好きじゃないと思う。終戦後の占領中にアメリカ人を間近に見て、すっかり外国人嫌いになったから。

博和
 ...... そうなのか。2人とも色々な経験をしているんだな。

こばと
 マリちゃんが大学生の頃には、一緒にニューヨーク行ったりして、そのときは楽しかったですねー。

真理子
 だね。夏休みに 2 週間かけてのアメリカ旅行。こばとちゃんと 2 人で買い物したり、ゴルフしたり、ブロードウェイでミュージカル観たり、毎日毎日パワフルに動き回ってた。 2 人とも英語に不自由しないから、言葉のことで煩わされずに思い切り楽しめたよね。懐かしいな。あの頃は私も若かった。

博和
 そうかあ。僕ももっと若い頃に真理子に出会いたかったなあ。

真理子
 ...... たぶん、お見合いだから結婚したと思うのよ。女子大生の頃に博和と出会っていたら、うーん、どうかなあ、お付き合いとかしなかったんじゃないかなあ。

博和
 ええ!? そりゃ、あんまりだよ。

真理子
 まあ、何にしたって、お互いに独身時代をそれなりに楽しんだから、それも人生の財産って思ったほうが前向きよ。そういえば、かばねさんとこばとちゃんは、栃木に何か縁があるの?

こばと
 姉さんとこばとは、その昔に下野国(しもつけのくに)で国綱(くにつな)様のもとでお世話になっていたことがあるから、栃木にはけっこう思い入れがあるんです。

真理子
 国綱? 誰?

こばと
 宇都宮国綱様。

博和
 確か下野を支配した宇都宮家最後の当主だな。

こばと
 さすが家に閉じこもって本ばかり読んでる博和さん、無駄に知識がありますね。

博和
 もう少しましな褒め方してくれないかな。

真理子
 その昔ってどれぐらい?

こばと
 本能寺の変の直後。西暦に直すとね ...... 1582 年ぐらいかな。
 安土城を焼け出されて、清州会議のあと、勝家様と再婚されたお市様について越前北庄(えちぜんきたのしょう)に行ったのですが、秀吉の軍勢が迫っていたので、勝家様はお市様とこばとに城を出るように言いました。でもお市様は勝家様のもとにとどまることを選びました ...... それがお市様との今生の別れとなりました。そのあと、こばとは泣きながらもつてを頼って下野国に行きました。
 ちょうどその頃、大坂に居た姉は何事があったのか心配して、安土に人をやったようですが行き違いでした。こばとは、ともかく無事であるということを文にしたためて姉に送りました。
「勝家様が秀吉に討たれたということです。天下の趨勢は勢い秀吉に味方しているようです。こばとは、あの裏切り者だけは決して許せませんが、このように非力ですから何をなすこともできません。とりあえず我が身の上に危険もなく、心中で悔しく歯がみしながらも、安逸をむさぼる日を過ごしております。その点については、いささかのご心労もなきように」
 しかし、お互いにずい分と長く会っていませんでしたし、やはり居ても立ってもいられないという心境で、姉は下野まで飛んで来てくれました。

真理子
 ずっと宇都宮家に滞在していたの?

こばと
 少しの間です。姉さんとこばとは国綱様の奥方の話し相手をしたり、ご子息の勉学を指導したりしていました。でも ...... 関ヶ原の合戦が始まる数年前でしたかね ...... 家内の内紛がきっかけとなって改易という憂き目に ......

真理子
 改易?

博和
 所領・家禄・屋敷を没収されることだよ。つまり取り潰し。
 だからさっきも言ったように、国綱は最後の当主となったわけだ。

こばと
 はあ。結局、私たちは、そのあと江戸に居を移して ...... まあこの話は長くなるのでまた今度。あ、もう栃木に入ってますねー。やはり 400 年前とは風景が ...... あんまり変わっていないような気が ...... 田んぼばっかり。

真理子
 やめなさい。栃木の人が聞いたら怒るわよ。

こばと
 まあ、何にしても姉は古風な妖精ですから、一度受けた恩は決して忘れません。久しぶりに国綱様の墓参りなどをする予定のようです。

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