博物館のウサギ

夢回廊① 博物館のウサギ

 奇妙な行列が連なっていた。
 無機質な黒い行列。
 私は後方に並んで、長い列が時折一歩、二歩と進むのをじりじりと待っていた。
 目の前には燕尾服とシルクハットの英国風紳士の後ろ姿。
 背後にも同じ格好をした男が立っていて、私の背中に無言の圧力をかけてくる。
 私は一度も振り返っていないのに、それを知っている。
 そうして全く同じ格好をした者たちが列の先頭まで続いている。
 Sの字に蛇行した列は頭から順に灰白色の石造りの建物へ呑み込まれてゆく。
 その重厚な建物が博物館であることを私は知っている。
 しかし何を見るためにそこへ行くのか私は知らない。
 そしてそれが不可思議な事だとは露にも思わない。
 長い待ち時間を覚悟しなければならないはずなのに、無意識のうちに私の身体は館の中に運び込まれていた。
 石壁に囲まれた、飾り気のない大広間。
 石床の上に部屋幅いっぱいになるほどの長い机が据えられていて、その上には兎の粘度細工が二列に並べられていた。
 人の行列は机の脇に沿って進み、誰もが一言も口を利かずに熱心に展示品を眺めていた。私も腰を屈めて作品を鑑賞してみるが、どこをどう見ても不細工な兎だった。
 しかも、そこに並ぶ全ての兎が寸分違わぬ同じ形をしていた。
 どれも均一に不細工な出来なのだ。
「なるほどですなあ」
 目の前に居る英国風紳士が唐突に言った。
 すると、他の紳士たちも口々に、
「なるほどですなあ」
「なるほどですなあ」
 と鸚鵡返しに言い始める。
 私は戸惑って、もう一度、兎に目を近づけてみる。
 しかし、やはり不細工な兎だった。
「あなたは、どう思います?」
 英国風紳士が訊いてきた。
 私は彼の目を見て、少し間を置いてから、
「ええ、なるほどだと思います」
 と答えた。なぜかそう答えるべきだと思った。
 否。それ以外の返答が頭に浮かばなかったのだ。
 すると彼は目を細めて今までになく柔和な表情で、
「そうでしょう。やはり、なるほどですな」
 と言ったので、私はむしろ気分が良くなって、
「ええ。なるほどですよ」
 と調子を合わせておいた。
 不思議と目の前に並ぶ兎たちが美しいものに感じられてきた。

Google広告
スポンサーリンク
スポンサードリンク
末尾大型広告
末尾大型広告

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください