秘密の書庫 謎の言葉 अष्टाध्यायी

 第1話「日曜日の来客」はこちらですよー。
 第2話「時国久茂君」はこちらですよー。
 この記事は第3話ですよー。

秘密の書庫

「ううむ。いよいよだね。禁断の地に足を踏み入れるわけだ」
 こばとの経営する『あとりえこばと』の地下には膨大な資料が収められた書庫がありますけど、その奥には厳重に鍵のかけられた扉があって、その先はまさにこの世に2つとない代物が保管されているのです。
「暗証番号を入れるので後ろを向いていてくださいな」
 こばとがそう伝えると、
「わかった」
 久茂君が扉に対して背中を向けます。
 こばとは素早く 6 桁の暗証番号を入力し、こばとの小さな手をかざして静脈チェックをさせます。「ピ」という電子音と同時に「がちゃり」と鍵の外れる重低音が書庫に響き渡りました。そして扉がゆっくりと奥に向かって開いていきます。
「お入りくださいなー」
 こばとがそう告げると、久茂君がこちらを向いて
「いざ行かん」
と秘密の書庫へ足を踏み出します。
 

関係ありません!

 それぞれの資料は個別に分けられて棚に収まっています。
 久茂君は自分と関係のない分野の棚のところでも、いちいち足を止めて興味深そうにラベルを眺めます。
「本能寺の変のあった日の記録? 夏目漱石からのお礼の手紙? GHQ の戦後教育計画極秘資料? これを世に出すだけで大変な騒ぎになりそうだ」
「そのへんは久茂君には関係ありませんからー! 特に GHQ 関係は絶対に手を触れるなー、ですよー! 姉も関わっていることですからね! 印欧語関係の資料はもっと奥ですよー!」
 こばとは「さっさと歩け」というように久茂君の背中を押します。
 

アシュターディヤーイー

「信じられん ...... 断片とはいえ、サンスクリット文法学者パーニニ直筆の『アシュターディヤーイー(अष्टाध्यायी)』をこの目にするとは ...... 」
 久茂君は抽斗を開けて、そこに収められた資料に見入っています。
「紀元前 4 世紀のものと推定されていますよ」
「素晴らしい。こいつに比べれば GHQ の資料など紙屑も同然だ」
 久茂君は白い手袋をはめた手で資料の入ったビニールケースの1つを慎重に持ち上げます。
「ちょっと時間をくれたまえ。こいつを記憶しなくてはいかん」
「 ...... 写真を撮った方が早いと思いますよ。あそこのテーブルに置いて、そっと撮影してくださいな」
 

アフリカですよ?

 撮影を終えた久茂君は
「さて。帰らなくてはならんな。しかし ...... いざ帰るとなると名残惜しいものだな」
「早く出てくださいなー!」
 こばとは小さな拳をぶんぶん振って急かしますよー。
「さっきから気になっていたのだが、この棚の抽斗のラベルはどれも見たこともない文字が綴られているんだ」
「ひゃあああ! な、なんでもありませんよー。アフリカの奥地で発見された資料なので、とーっても珍しい文字なんですよー!」
 こばとは慌てて下手な言い訳をしてしまいました。
「アフリカ? 確かに僕はアフリカには詳しくないが ...... いや、ううむ ...... 知らないというだけでなく、どうにも違和感を覚える文字だよ。まるで地球上には存在していないかのような ...... 」
 ききい! さすがに言語学者だけあって勘が鋭いですねー!
 鬱陶しいこと、このうえないですねー!
「つべこべ言わずに、さっさと出ろですよー!」
 こばとはまた拳をぶんぶん振って久茂君を追いたてましたよ。(おしまい)

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