疎開

 ≪ 第5話「姉の誇り」
 

幸恵ちゃんの思い出 第6話「疎開」

 あれは確か 1943 年のことだったと思います。まだ大規模な空襲に見舞われてはおらず、学童集団疎開が行われるのはもう少し先のことでした。しかし戦況を悲観していた姉は先を見越して、良江さんにこんなことを相談していたのです。

かばね
 このまま東京に居ては危ないわ。信男君を疎開させましょう。

田之倉良江(たのくら よしえ)
 急にそんなこと言われても、信男はまだ小さいし、たった1人で知らない人のところに預けるなんて。

かばね
 良江さん、数年の辛抱よ。信男君を大切に世話してくれる知人に預けるから心配しないで。それに東京より食料に余裕があるから、信男君の成長のためにもそのほうがいいと思うの。

良江
 それはそうかもしれないけど ......

こばと
 姉さん、まるで東京が火の海にでもなるような不吉なこと言わないでくださいなー。信男君はここでお母さんと一緒に暮らしたほうがいいに決まってますよー。

かばね
 あなたは黙ってなさい!

こばと
 ...... 何も怒鳴らなくても。

かばね
 あ、それからね、幸恵ちゃんの末の弟さんも一緒に行くから心強いわよ。

こばと
 え? 三郎君も疎開するの?

かばね
 ええ。丁寧に説明したら、幸恵ちゃんも御両親も、すぐに納得してくれたわ。

こばと
 どこへ行くの?

かばね
 群馬よ。善知鳥泰誠(うとう たいせい)さんの所に預けようと思うの。

こばと
 あー、善知鳥さんは地主さんですから、確かにお腹いっぱい食べられますねー。そうだ! こばとも疎開しようかなー。

かばね
 ...... 2人預けるだけで精一杯よ。

こばと
 ...... がっかりですよ。

 姉の必死の説得に折れて、良江さんは信男君を疎開させることを決意しました。当の信男君は「そんな所に行きたくない。お母さんのそばにいる」と泣いていましたが、姉が優しく諭して、なんとか納得してもらうことができました。
 姉とこばと、そして食料の買い出しを頼まれた幸恵ちゃんが信男君と三郎君を連れて汽車に乗って東京を立ちます。

幸恵
 ほら信男君、もう泣かないで。
 向こうに着いたら、美味しいご飯をいっぱい食べられるよ。

信男
 ひっく、ひっく。

幸恵
 ビスケットひとつ食べようか。

信男
 ひっく。うん。

こばと
 こばとにもビスケットくださいなー。

幸恵
 こばと先生、ごめんなさい。
 もう残り少なくて、信男君と三郎のために取っておきたいの。

こばと
 ...... がっかりですよ。

かばね
 三郎君も元気ないわね。
 やっぱり御両親と別れるのは辛いわよね。

三郎
 そんなことないよ。

幸恵
 三郎はお兄ちゃんなんだから、ちゃんと信男君の面倒を見てあげてね。

三郎
 わかってるよ。

こばと
 たしか泰誠さんにも息子さんがいたよね。

かばね
 ええ。宗一郎君ね。まだ赤ん坊の頃に会ったきりだけど、今はもう10歳ぐらいになっているはずよ。泰誠さんからの手紙には、病弱なので家族がいつも心配していると書いてあったわね。

こばと
 こばとが一緒に遊んで元気づけてあげましょー。

かばね
 あなたはすぐに東京に帰るのよ。
 なに勝手に居つこうとしてるのよ。

こばと
 .........

 ≫ 第7話「善知鳥宗一郎」

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