日曜日の来客

まだ眠いですよ

 日曜日なので、こばとは昼過ぎまでベッドで「すぴー」とか「くかあー」と気持ちよく寝ていたんですけど、インターフォンが鳴ったので、その快い眠りは中断されて「んああ?」と寝ぼけ眼をこすりながら、ふらふらと下の職場へ降りて行きました。
「ふわあ。こんな時間に誰ですかあ?」
と尋ねると、
「こんな時間って ..... もう午後1時なんだが ...... 僕だよ。久茂です」
と返ってきました。
「久茂君ですかー。珍しいですねー」
 こばとはオートロックを解除してお客さんを応接間に通しました。
 時国久茂(ときくに ひさしげ)君は、こばとが(大昔に)大学に勤めていたころのゼミの教え子で、彼もまた大学で語学研究の道へ進みましたが、一昨年に定年退職しています。
「ちょっと近くまで来たもんでね。 Dr.Kobato の家に寄ってみようと思ったんだ。迷惑だったかな?」
「こばと、今日は3時まで寝るつもりだったんだけどなー」
「 ...... そりゃ寝過ぎというものだよ、 Dr.Kobato 」
 久茂君はいつも気取った話し方をします。こばとのことも、いちいち格好つけて Dr.Kobato と呼んだりします。知り合ってから数十年の間、ずっとそうです。
「まあともかく、お茶でもどうぞー」
「あ、かまわないでくれたまえ」
「向こうに給湯室がありますから、好きなだけどうぞー」
 こばとは職場の横にある給湯室を指差します。
「 ...... 自分で淹れるのか。あー、だったらすぐそこの Cafe で一服しようじゃないか」
「ドードーカフェですねー。いいですよー」
「とりあえず着替えてきたらどうかね?」
 久茂君は呆れたように肩を竦めます。
「あー。まだパジャマだったー」
 こばとはいったん屋根裏に戻って身支度しました。
 

ドードーカフェで世間話

 久茂君とこばとは外に出てカフェまで歩き、ドードー鳥の描かれた看板の下をくぐって店内に入りました。
「ブルーマウンテンを baby bird-size でね」
 久茂君が鼻にかかったような声で英語を交えて注文するので
「は?」
 店員さんは目を丸くしました。
「ひな鳥サイズということです」
 こばとが横から補足しておきました。
 席に着いてからしばらくは何気ない世間話を続けます。
「会社のほうはどうなんだい?」
「まあ、いつもの通りですよー。倒産しない程度には何とかやってますねー」
「 ...... いつ来ても同じ答えだね。 Dr.Kobato は経営者に向いてないんじゃないかね? 学者としての暮らしのほうが合っていると、僕は思うけどね」
「前にも言ったように、大学はどうもねー。こばとには合わなかったですねー。忙しいけど、今の生活のほうが賑やかで好きかもですねー」
「たまに論文は発表しているね」
「空いた時間に少しずつねー」
「 Dr.Kobato の論文は全て目を通しているよ」
「ありがとー ...... て、久茂君も定年してるのに研究熱心ですね」
「本は書くからね。常に新しい情報に触れていたいんだ」
 久茂君はしれっとした表情で言いましたよ。
「ききい! うちの依頼は断ったくせにー!」
 中央公論の仕事は引き受けて、『あとりえこばと』の仕事は引き受けられないという理由がありますかねー!(あるかもしれない)
「怒るのは筋違いだよ。 Dr.Kobato の提示した原稿料は、その、なんというか、常軌を逸していたよ。子供の小遣いじゃあるまいし」
「きききい! うちとしては精一杯の提示額だったのにー」
「あれで精一杯なのかね ...... やはり経営には向いていないんじゃないかね ...... このまえ南舘(みなみだて)君も嘆いてたよ、恩師の頼みだから仕方なく依頼を受けているんだが、もう限界に近いって」
「ききききい! 恩知らずな教え子ばかりでいやんなっちゃうなー!」
「そんなにきいきい怒らないでくれたまえ。あー、で、そろそろ本題に入りたいんだが、今日は Dr.Kobato にどうしても頼みたいことがあってね」
「 ...... さっきは偶然近くに来たとか言ってませんでした?」

 ⇒ 第2話「時国久茂君」に続きます。

Google広告
スポンサーリンク
スポンサードリンク
末尾大型広告
末尾大型広告

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください